サポート詐欺が前年の2.5倍|「件数」が3つある理由と偽警告の消し方を図解

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EC市場・消費分析

サポート詐欺が前年の2.5倍
ただし「件数」は3つある

画面いっぱいに出る「ウイルスに感染しました」。その報告が前年同期の2.5倍になったという数字と、公的機関が数えている数字は、まったく別のものを数えている。まずそこを分けてから、消し方の話をする。

やま(データアナリスト18年/FP2級・AFPほか15資格)
筋肉データアナリストの研究所 / 2026-08-25

トレンドマイクロのサポートセンターに寄せられた報告(2026年上半期)

5,499

前年同期比 2.5倍。ただしこれは日本全体の被害件数ではない

数字① 民間ベンダー

報告5,499件/半年

数字② IPA

相談1,428件/四半期

数字③ 警察庁

そもそも枠がない

サポート詐欺とは何をされている状態なのか

まず、画面の中で起きていることを1枚にする。

ウイルスに感染しました 今すぐサポートへ連絡してください 0120-XXX-XXX ※ 模式図。実在の警告画面ではありません

サポート詐欺(テクニカルサポート詐欺)は、パソコンやスマホの画面に偽のウイルス警告を出し、そこに書かれた電話番号にかけさせる手口だ。実際には感染していない。感染しているのは、そう思い込ませる画面のほうだけだ。

電話をかけた先で起きること:有償サポート契約の勧誘/遠隔操作ソフトの導入/コンビニで電子マネーを買わせる指示。金銭の要求まで含めて1本の導線として設計されている(警察庁「サポート詐欺対策」より)。

「前年同期比2.5倍」はどこの数字か

出どころを書かずに数字だけ引用すると、意味が変わる。

約2,200件 5,499件 前年同期(逆算値) 2026年上半期 縦軸は0から。倍率は2.5倍

トレンドマイクロが2026年8月20日に公開したレポートで、同社サポートセンターへの報告件数が5,499件、前年同期比2.5倍と発表された。これは1社のサポートセンターが受けた相談の数で、日本全体の被害件数でも警察の認知件数でもない。

事実:5,499件は民間1社への報告数。
考察:同社の利用者数や問い合わせ導線が変われば、被害の実数が同じでもこの数字は動く。

前年同期の実数は非公表。割り戻すと約2,200件だが、これは本記事の逆算値で発表値ではない。

同じころ、IPAへの相談は四半期で1,428件だった

公的機関の窓口だと、桁がひとつ変わる。

912 647 789 1,154 1,428 25年4-6 25年7-9 25年10-12 26年1-3 26年4-6 3四半期連続で増加(単位:件)

IPA(情報処理推進機構)の情報セキュリティ安心相談窓口では、2026年4〜6月の「ウイルス検出の偽警告」に関する相談が1,428件。相談総数3,832件のうち37.3%を占めて最多だった。

2025年7〜9月の647件を底に、3四半期続けて増加。直近は前四半期比プラス23.7%で、「増えている」方向は民間の数字とも一致する

警察庁の統計に「サポート詐欺」という枠はない

3つめの数字が、いちばん誤解されやすい。

SNS型投資 ニセ警察 SNS型ロマンス その他 架空料金請求 オレオレ 797.9億 507.9億 246.6億 120.3億 74.6億 68.9億 2026年上半期・暫定値(警察庁/7月31日公表)

警察庁が2026年7月31日に公表した上半期の暫定値は、認知22,031件・被害総額1,816.2億円(前年同期比プラス51.7%)。1日あたり約10億円だ。この手口別の一覧に、「サポート詐欺」という項目は無い。いちばん近い架空料金請求詐欺(74.6億円)にも、料金未納をかたるSMSなど別の手口が入っている。

事実:警察庁の手口別区分に「サポート詐欺」の独立項目はない。
考察:被害額は架空料金請求詐欺やその他へ分散して計上されているとみられ、この統計から手口別の実額を取り出すことはできない。

3つの数字は、数えている母集団が全部ちがう

ここが本題。並べると一目で分かる。

出どころ 数字 何を数えた数か できないこと
民間ベンダー
トレンドマイクロ
5,499件
(2.5倍)
自社サポートセンターに届いた報告(半年) 全体推計に使えない
IPA
安心相談窓口
1,428件 公的窓口への相談(四半期・偽警告区分) 相談しなかった人は入らない
警察庁
特殊詐欺統計
区分なし 被害届等にもとづく認知件数・被害額 サポート詐欺だけを抜き出せない

ワテはデータの仕事を18年やっているが、この3つを足したり比べたりすることには意味がない。母集団が違う数字は、そもそも同じ物差しに乗らない。

逆に、3つが別々の入口から同じ方向(増加)を指していることのほうが情報量は大きい。1社の集計なら偶然もありうるが、公的窓口の相談も同時に増えているなら、拡大していると読むのが自然だ。

偽サイトは3万3千件超、その約9割が1日で消える

ここから先は、加害側の運用の話になる。

確認された偽警告サイト 3万3千件超 約9割は「1日限り」で消える 残り = URLを遮断しても、翌日には別のURLが立つ サイトは、消耗品として運用されている 出典:トレンドマイクロ「個人セキュリティ脅威動向レポート 2026 上半期」

レポートで確認された偽警告サイトは3万3千件超。うち約9割が1日限りで消えている。つまり、URLを見つけて遮断する対策は、構造的に後追いにならざるを得ない。

逆に、使い回されているのは「電話番号」だ

捨てるものと、捨てないもの。ここに非対称がある。

偽サイト(数百単位・毎日入れ替わる) 同じ電話番号 1つの番号が、数百のサイトで再利用されている

レポートによれば、偽サイトに書かれた電話番号は1つの番号が数百のサイトで使い回されている。サイトは毎日捨てるのに、番号は捨てない。

データを扱う立場から見ると、この非対称は分かりやすい。番号を替えると、その先の受け答え(人・回線・入金の導線)を作り直すことになる。安く捨てられないものは、使い回される。

入口はウェブ広告からメールへ移った:165日で約1,388万通

「怪しいサイトを見なければ大丈夫」が効かなくなっている。

約1,388万通 165日間で観測された誘導メール 94% 宛先が「.jp」ドメイン 4月中旬〜:大手ECサイトや 国税庁をかたる文面 5月〜:「人事評価」など 社内連絡を装う文面

従来は広告経由で警告画面にたどり着く形が中心だった。それがメール起点へ広がっているというのが今回の指摘だ。

165日間で観測された誘導メールは約1,388万通、宛先の約94%が「.jp」ドメイン。日本語を使う人を狙い撃ちにした運用になっている。

「顔が見える」も「番号が合っている」も、根拠にならなくなった

ここは茶化さずに書く。

映っている顔が本人である保証はない

警察をかたる偽サイトにビデオ通話の機能が組み込まれている例が挙げられている。アプリを入れさせなくても、ブラウザ上で「顔の見えるやりとり」が演出できる。

ディープフェイクで別人の顔を合成し、攻撃者が捜査関係者役として通話に出る例も報告されている。映像も電話番号の表示も、本物である証明にはならない

AIそのものが入口になった例

商品ページに仕込まれた見えない指示によって、買い物を代行するAIが利用者の予算を30ドルから85ドルへ引き上げ、別の販売者へ誘導された事例がレポートに載っている(同レポートには現在は修正済みと記載)。AI由来の詐欺やディープフェイクを「自信を持って見破れる」と答えた人は約8.5%にとどまる。

偽警告が出たときにやること・やらないこと

対処は単純で、順番だけ守ればいい。

やること

  • ① 警告音は無視して、まずブラウザを閉じる(Escキー長押し、またはタスクマネージャーから終了)
  • ② 閉じられたら、それで終わり。再起動して様子を見る
  • ③ 不安なら、公式サイトに載っている番号に自分でかけ直す
  • ④ 閉じ方が分からないときは IPA 安心相談窓口へ

やらないこと

  • 画面の番号にかけない(ここが最大の分岐点)
  • ② 指示されたソフトを入れない(遠隔操作の入口)
  • ③ 電子マネーやギフト券を買いに行かない
  • ④ メールやSMSのリンクから支払いを確認しない(公式アプリで見る)

もし遠隔操作ソフトを入れてしまった後なら、ネットワークから切断してアンインストールし、パスワードを変更する。可能なら初期化まで踏む——ここは警察庁の案内に沿った手順だ。

原則はひとつだけ

向こうから提示された連絡先は使わない。いったん切って、自分が知っている経路でかけ直す。ビデオ通話でも、番号表示が正しく見えても、この原則は変わらない。

「引っかかるほうが悪い」で終わらせると、数字は減らない

フェアに書いておきたいことがある。

この手口が刺さる条件

  • ・画面が全面を占有し、警告音が鳴り、閉じ方が分からない状態にされる
  • ・「今すぐ」と時間を切られ、考える時間を奪われる
  • ・相手が名乗るのは、断りにくい肩書き(サポート窓口・警察)

冷静さの問題ではなく、設計の問題だ。焦る条件を揃えたうえで電話番号だけを大きく置く——UIで人の判断の幅を狭めるという意味では、合法の領域のダークパターンと地続きになっている。

だから対策も、注意力ではなく手順に落とす。「向こうが出してきた番号にはかけない」の1行を家族で共有しておくほうが、注意喚起を100回聞くより効く。ワテの実家には、この1行だけ紙に書いて電話機の横に置いてある。

まとめ:数字を見たときの3つの問い

Q1その件数は、誰が何を数えた数字か?
Q2別の出どころの数字も、同じ方向を指しているか?
Q3その数字は、自分の行動を変えるものか?

報告は前年の2.5倍、公的窓口の相談も3四半期連続で増加。入口はウェブ広告からメールへ広がった。それでも、画面に出た番号にかけなければ、この導線は最初の一歩で切れる。覚えることは、そこだけでいい。

やま(筋肉データアナリスト)

データ分析実務18年/G検定・FP2級・AFP・証券外務員一種・宅地建物取引士 ほか15資格

本業は事業会社のデータ分析。この記事では対策製品の比較ではなく、公表された件数が何を数えた数字なのかという読み方のほうに重点を置いた。セキュリティ製品・サポートサービスの販売はしておらず、どの選択をしても筆者に利益は発生しない。

出典・免責

① INTERNET Watch「テクニカルサポート詐欺が前年同期比2.5倍に急増! 新手の詐欺としてAIの回答が入口になる事例も」(2026年8月21日)internet.watch.impress.co.jp/原典:トレンドマイクロ「個人セキュリティ脅威動向レポート 2026 上半期」2026年8月20日公開(本文中の数値はすべて同レポートによる)
② IPA 独立行政法人情報処理推進機構「情報セキュリティ安心相談窓口の相談状況[2026年第2四半期(4月〜6月)]」ipa.go.jp(相談総数3,832件/ウイルス検出の偽警告1,428件・構成比37.3%/四半期推移912・647・789・1,154・1,428件)
③ 警察庁「令和8年上半期における特殊詐欺の認知・検挙状況等について(暫定値)」2026年7月31日公表/ScanNetSecurity(2026年8月7日)scan.netsecurity.ne.jp(認知22,031件/被害総額1,816.2億円/手口別被害額)
④ 警察庁「サポート詐欺対策」npa.go.jp(被害後の対処手順)
いずれも取得日 2026年8月25日。前年同期「約2,200件」は公表倍率からの本記事による逆算値です。

本記事は公表資料をもとにした一般的な情報であり、特定のセキュリティ製品・サポートサービスの利用を勧めるものではありません。統計の数値は公表後に改定される場合があります。実際に被害に遭った、または不審な操作をしてしまった場合の個別の対応については、警察相談専用電話(#9110)やIPA安心相談窓口、契約中の金融機関等にご相談のうえ、読者ご自身の責任でご判断ください。

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